SVEA123R|漢のガソリンストーブ
積雪期の登山のために手にいれたガソリンストーブ、SVEA123R。
自分にとっては実用的な必携品ですが、Amazonのレビューなどでは、「火力・使い勝手など現代の最新ストーブに遥かに劣る」だの、「趣味の一品」、「コレクション」、「面白いおもちゃ」、「インテリアの一部」などの文言が見受けられます。
自分は少人数、殊に積雪期単独登山者の携行する火器としては実用本位の完成形だと思っています。
積雪期の登山でテントサイトを決めて、雪を踏み固め整地し、風でばたつくテントを飛ばさないように設置。水を作るためにビニール袋いっぱいに雪を集めテントに潜り込んだ時には手指が冷たくなっています。
悴んで思うまま操れぬ己の手指を使い燃料キャップを外し、燃料ボトルからガソリンを移し、懐で温めておいた着火用の使い捨てライターで、本体窪みに滴下させた(時にはぶっかけた)ガソリンでプレヒート作業。一回ではなく2回、3回と本体が温まるまで行います。
着火の時だけ不測の事態に備えテントから出して行い、着火後テント内へ引き入れ、火力安定後に使用します。
== 目次 ==
- 1.SVEA123Rを選ぶ理由
- 2.評価の分かれるポイント
- 3.減圧弁が火を吐く
- 4.SVEA123Rの使用例
・山行中に故障して欲しくない
・悴んだ指で操作する
・メンテナンスが楽
・鎖で繋がれた火力調節ネジと風防
・燃料タンク一体型による長所と短所
・火力
・重さ
・減圧弁の作動条件
・SVEA123Rに付属する鍋
・給油
・予熱作業
・着火から本燃焼
・消火
SVEA123Rを選ぶ理由
山行中に故障して欲しくない
スベア123Rは可動部品が少なく、故障報告もあまり聞いたことがありません。
もし冬山登山でガソリンストーブが故障したらどうでしょうか。飲み水も作れなければ暖かい食事もできません。携行するビニール水筒の水が凍ってしまう状況下でのことです。
1日の行動をおえて、テントに入りストーブに火入れしようとして、それが壊れていたら結構深刻な事態に陥るのではないでしょうか。
以前はMSR社のウィスパーライト・インターナショナルを使っていました。現行のモデルではない旧モデルですが、ネット検索で不具合報告などを調べてみると、樹脂製のポンプが割れているなどの書き込みがありました。こういった不測の事態は回避したいとかんがえて、自然とスベアを携行するようになりました。
(大きな鍋が安定して使える事や、マルチフューエル対応など、ウィスパーライト・インラーナショナルには、特有の強みがあります)
悴んだ指で操作する
例えばMSR社のウィスパーインターナショナルを持っていくときは、ポンプも燃料タンクから外し鍋の中などに入れて携行します。そして使用するときには燃料ボトルの蓋を外し、ポンプをセット、バーナーとポンプを接続し、ポンプアップ。ここまでやってからプレヒートののち着火することとなります。
悴んだ指でこれらの操作をやるのと、スベアのプレヒート作業を比べるとどちらが手間でしょうか。SOTOのMUKAストーブはプレヒートは必要ありませんが、それ以外は同じです。
同じホワイトガソリンを使用しても、自分の旧型ウィスパー・インターナショナルは煤がよくでると感じました(現行型についてはわかりません)。テント内で使用するのだったらススは出ない方がいいに決まっています。MUKAストーブを使う友人はレギュラーガソリンを使用していましたが、煤はそれほどでないといっていました。
メンテナンスが楽
燃料がでるニップルの穴に煤がたまったら、火力調整キーを反時計回りに一杯まわすと、本体に内蔵されているクリーニングニードルが出てきます。必要なメンテナンスはこれだけです。
使用後は燃料タンクを空にして保管します。
評価の分かれるポイント
鎖で繋がれた火力調節ネジと風防
本体と鎖で繋がれたネジにより、風防が完全にはずれなくて、取り回しが不便という意見があります。
道具は使う人が使いやすい様に工夫するもの。人によっては鎖を風防に付け直すなど加工していらっしゃるようです。これはこれで正解だとおもいます。
私の場合は、冬山のテントで雪の吹き込みを極力避けながら、前述のようにプレヒート〜着火を行って使います。このとき誤って風防をテントの外に落とし、それが風に飛ばされてしまったり新雪の中に埋もれてしまったらこれも深刻な事態です。
風防をテントの中にしまっておけば良いと思われるかもしれませんが、テントの中は物で溢れています。うっかり尻の下にして潰しまうかもしれないし、火力調整ネジもいざ使おうと思って探してしまうような労力も避けたいので、自分にとっては、これらが本体とくっついているほうがありがたいのです。
燃料タンク一体型による長所と短所
MSR社のウィスパーインターナショナルやSOTOのMUKAストーブは燃料タンクと本体分離型です。利点は大きなクッカーがつかえることと燃料タンク内の燃料が続く限り連続燃焼が出来ることです。
スベアは燃料タンクと一体型。これの利点は取り回しの良さ。本体は熱くなりますが、冬山なら厚手の手袋や靴下をしているはずです。テント内で使用中に移動させるのもラクです。強風でバタつき揺れるテント内でも足で本体を挟んで使用できます。
また山行中に燃料の管理がしやすいという利点があります。
SVEA123Rの燃料タンク容量は0.18ℓです。ガソリンの量はタンクの2/3を超えないこととされています。
自分は1回の燃焼補給で水作りと炊事を済ませるようにしています。このようにしていれば山行中に必要な燃料の量がだいたい把握できます。
燃料追加は本体が冷めてからでないと行えません。冬山ではテントの外に出せばいいのですが、気をつけたいのがうっかり凍った雪面に置くこと。熱い本体が凍った雪を溶かしてた後、再度凍ってしまい雪面に張り付いてしまいます。じぶんは過去に1度やらかしてしまいました。
また中途半端に冷やして燃料キャップをあけると、ガソリンが吹き出します。この時そばにローソクやタバコがあったら大惨事になります。これも過去やらかしてしまいました。
火力
スベアの公式の出力は1400W(1300Kcal)とされています。
MSRウィスパーインターナショナルの最高出力は2772Kcal。SOTOのMUKAストーブは4.7W(4000Kcal)。これらに比べると非力と思われるかもしれませんが、自分は火力不足を感じたことはありません。
火力調節が効かないと言う話もあります。製品の個体差があるのかもしれませんが自分の場合はトロ火も十分可能です。
また使用中の本体は熱くなります。これがテントの中を暖めるストーブ効果があるように感じます。
テントの中で友と向かい合い、とろ火でお汁粉やコーヒーを交互に暖めながら談笑するのもおつなものです。
使用中に燃料が無くなってくると火勢が衰えてきます。あれっ、と思いながら2、3回火力調節をしているうちに燃料切れで消火します。
友人がSOTO社のMUKAストーブを使っているのを見ましたが、強力な火力を一人使用では持て余すと感じました。MUKAストーブは多人数の時はいいかもしれません。
重さ
スベアは本体重量550グラム。この他に燃料ボトルを持ち運ぶこととなります。
MSR社のウィスパー・インターナショナルは本体とポンプで318グラム。SOTO社MUKAストーブは333グラム。この200グラムあまりの差をどう判断するか。
不具合の起こる可能性やメンテナンスのし易さ。これらを加味して考えると、この重量差を割り引いても単独積雪期登山では断然SVEA123Rが優っていると思うのです。
また冬用のガス・カートリッジやアルコール・ストーブ、エスビット社の製品など、軽量かつ低温下での使用ができる優れものが多々あるようです。
軽量化を最優先させるならこういった製品が選択肢にあがりますが、雪を溶かして水を作るという用途には向かないように思われます。
雪から水を作るときに鍋に大量に発生する結露の問題や、雪を溶かすための熱量不足です。
減圧弁が火を吐く
スベアについてネット検索などしていると、減圧弁が作動して火だるまになった、というような報告が見られます。
減圧弁の作動条件
この減圧弁作動の報告をみていると、以下のような状況で起こっているようです。
- ・ 寒冷地ではない場所で使用している。
- ・ 燃料タンクに覆いかぶさるように大きな鍋を使った。
- ・ 付属品である「五徳兼風防」以外の風防も使った。
実は自分も春先の海岸で大きな鍋(直径二十数センチ程度)を使ったときに、減圧弁からロウソクの炎程度の火が吹きました。すぐに消火して、まだ余熱のあるうちに再点火したらあとは平常運転でした。
減圧弁が作動するのは、主に鍋や過度な風防による輻射熱の影響によるものだと思われます。大きな鍋をつかうのにはMSR社のものや、MUKAストーブのような燃料タンク分離型ストーブのほうが鍋が安定します。
SVEA123Rに付属する鍋
スベアには小さなアルミ鍋が付属します。この鍋については否定的な意見しか見聞きしたことはありません。が、もしかしたらこのアルミ鍋は身を持って購入者に語っているのかもしれません。
「僕のような大きさの鍋の使用を想定して作られたストーブですよ」「あまり大きな鍋は使わないでね」と。
正規輸入代理店スター商事の説明書では、「直径11センチ以上のコッヘルは載せないでください」と記されています。
SVEA123Rの使用例
給油
燃料キャップを外してタンクに燃料を入れます。
美濃の油売りになったつもりで燃料ボトルから直接注ぎます。
山行中では道具が増えれば管理の手間も増えるので漏斗などは使いません。
少しぐらいこぼれても、そのままプレヒートで燃えてしまいますし、まごまごしてるうちに揮発してしまいます。
本体を傾けて燃料量を確かめます。公式には燃料タンク容量(0.18ℓ)の2/3が上限です。着火後に熱で膨張した空気の圧力により燃料が吹き出されるためです。
ガソリンを多めに入れると着火直後に火力が安定しません。間欠的に火勢が上がり、「ブルルッ、ブルルッ、ブルルッ」という感じですが、自分の経験ではそのまま使っているうちに安定してきます。
予熱作業
本体くぼみにガソリンを垂らして、これに火をつけて予熱作業します。寒い場所では2度3度と温まるまで行います。
スター商事の説明書では予熱剤の使用が案内されています。
しかし、100年以上の歴史を持つSVEA123R本来の設計思想では予熱行為はガソリンで行うとされていたのではないでしょうか。
山行中の携行品を減らすためにも、ガソリンで予熱しています。
着火から本燃焼
予熱の火がまだついているうちにバルブを開いて着火させるのが一番ラクなパターンです。通常は予熱の火が消えた後、バルブを開きながら吹きでる気化ガスにライターなどで火をつけます。
低温環境ではガスライターなどは使えなくなります。自分は石で火花をだす方式の使い捨てライターをつかっています。ライターのガスも冷えていると着火しないため、SVEAの準備するまえに懐に入れて暖めて使っています。
SVEAの予熱が足りないと、気化していない液体のガソリンが出てきます。これに引火して大きな火が出ることがあります。
その際は慌てず火力バルブを閉じて、周りに引火物のないのを確かめて放置してください。
火が消えたらSVEA123Rは十分予熱されているはずです。あらためて火力調節バルブを開いて着火させてください。
この辺の頃合いは使用しているうちにわかってきます。購入後はじめて使うときは本番前に練習しておく方が安心です。
着火直後は「バッ、バッ、バッ」と明るい大きな炎があがります。
前髪を焦がさないように気をつけてください。
しばらくすると炎が青白くなり火力が安定します。
結構大きな燃焼音です。
テントサイトでは周りを気にしてしまいますが、人気などない稜線上ではこの音が逞しく感じます。
SVEA123Rを愛用する方には、この燃焼音が好きというひとも多いのではないでしょうか。
ゴトクを兼ねた風防を取り付けて使用します。燃料バルブのネジは本体に付けたままだと熱くて持てなくなるため、外しておきます。
使用中は本体が非常に熱くなるため、手袋などをしていないと持てません。また自分の場合はコルクの鍋敷を一緒に使っています。
消火
使用後は火力調節ネジでバルブを閉じて消火します。
バルブを閉じても暫くは残ったガソリンが燃焼しています。
やがてその火も消えますが、本体がまだ熱いので、冷えるのを待ってからタンクに残った燃料を燃料ボトルに戻します。
以前燃料タンクにガソリンを入れたまま持ち運んで使おうとしましたが、揮発したのか漏れたのか空っぽになっていたことがありました。
これも個体差があるのかもしれませんが、山行中の限られた燃料を無駄なく使うためこうしています。
尚、ガソリン・ストーブをご使用の際は、十分安全に留意してお使いになり、充実のアウトドアライフをおおくりください。
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